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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)5号 判決

福岡県北九州市小倉北区中島2丁目1番1号

原告

東陶機器株式会社

同代表者代表取締役

江副茂

同訴訟代理人弁護士

中村稔

富岡英次

同弁理士

小堀益

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

同指定代理人

関口博

土屋良弘

主文

特許庁が平成4年審判第18960号事件について平成5年11月8日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決。

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、原告代理人小堀益(以下「出願人代理人」という。)を代理人として、平成2年1月31日、意匠に係る物品を「洗面化粧台」とする意匠登録出願(平成2年意匠登録願第2711号、以下「本願」という。)をしたところ、平成4年7月28日、拒絶査定(以下「本件拒絶査定」という。)がなされたので、これを不服として、審判を請求(以下「本件審判請求」という。)した。

特許庁は、この請求を、平成4年審判第18960号(以下「本件審判」という。)として審理した結果、平成5年11月8日、「本件審判の請求を却下する。」との審決をなし、その謄本は、同年12月23日、出願人代理人に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  本願について、平成4年7月28日に本件拒絶査定がなされ、その査定の謄本が、平成4年8月30日に出願人代理人に送達された(以下「本件送達」という。)ことは、福岡県博多郵便局の郵便物配達証明書(以下「本件配達証明書」という。)によって明らかであるから、本件拒絶査定に対する審判請求は、本件送達があった日から30日以内である平成4年9月29日迄になされなければならない。

(2)  本件審判請求は、平成4年9月30日になされているので、上記法定期間を経過した後の不適法な請求でありその欠缺は補正することができないものであるから、意匠法52条において準用する特許法135条の規定により、これを却下すべきものとする。

3  審決の取消事由

(1)  審決の理由の要点中、平成4年7月28日に本件拒絶査定がなされたこと、その謄本が出願人代理人に送達されたこと、及び、本件審判請求は、平成4年9月30日になされたことは認め、本件送達が平成4年8月30日になされたことは否認し、その余は争う。

(2)  審決を取り消すべき事由

本件送達があった日は、平成4年8月31日である。したがって、本件拒絶査定に対する審判請求は、本件送達があった日から30日以内である平成4年9月30日迄になされなければならないところ、本件審判請求は、その期間内の平成4年9月30日になされたものであるから、適法である。

しかるに、審決は、本件送達があった日を平成4年8月30日であると誤認した結果、本件審判請求は、平成4年9月30日になされているので、上記法定期間を経過した後の不適法な請求であり、その欠缺は補正することができないものであると誤って判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。

審決は、本件送達があった日が平成4年8月30日であることは、本件配達証明書によって明らかであるとする。

(一) しかしながら、特許庁の実施している送達方法は民事訴訟法162条に基づく郵便による送達である。郵便法及び郵便規則に基づく特別送達の取扱いによらない書留郵便による送達は、書類の交付の確保、その証明の容易さの点において特別送達と同視し得る手段を講じてある場合に限り、これを民事訴訟法に規定する郵便による送達の実施手段とみるべきである。そして、民事訴訟法177条には、送達報告書に記載すべき具体的事項については規定していないが、送達書類、受送達者の氏名、送達を実施した者の資格及び氏名、その署名又は記名押印はすべての送達を通じて必要であり、さらに、交付送達の場合には、送達の場所、送達の年月日時、送達書類を受領した者の氏名(補充送達の場合は、受送達者との関係)を記載し、かつ受領者の受領の事実を証するために、原則として受領者の署名又は記名押印を徴すべきであるとされている。送達の証明は、必ずしも、送達報告書によってなされなければならないものでないにしても少なくとも送達報告書と同視できる程度の証明力を有する証拠による証明が必要であると解される。ところが、書留郵便における郵便物配達証明書は、民事訴訟法が規定した交付送達(164条1項)、出会送達(169条3項)、補充送達(171条1項)等の送達方法中、どの方法により送達されたのかを明らかにするような事項証明書の作成者の署名又は記名押印、配達者の氏名、配達の時刻、配達の場所、受交付者の氏名の記載はなく、上記の条件を充足しておらず、特別送達と同視し得る手段を講じてあるとはいえない。

したがって、拒絶査定の謄本の送達は、本来郵便法にいう特別送達の方法によってなされるべきである。

(二) 仮に、被告の採用する書留郵便による送達の方法が許されるとしても、そもそも、書留郵便物等の配達証明についての郵便法62条、郵便規則106条と引受時刻証明についての郵便法61条、郵便規則104条とを対比すれば、配達証明は、郵便物を配達し又は交付したという事実自体を証明事項とするものであって、配達の正確な日時を証明事項とするものではないと解するのが相当である。もっとも、時期を失した配達について配達証明を発することは無意味であるから、郵便物の配達が引受から相当な期間内になされたと認めるに足りる程度に配達時期を特定しなければならないとしても、正確な配達日時自体は証明事項ではないと解される。

したがって、書留郵便による拒絶査定の謄本の送達において、その送達のあった日すなわち郵便物の配達の日の証明の有無が争点となり、書留郵便物の配達証明書に記載された配達日が、客観的証拠及びその他の証拠に照らして不自然かつ不合理である旨の具体的指摘がなされた場合は、配達証明書に記載された配達日を書留郵便による拒絶査定の謄本の送達があった日とすることは許されない。

しかして、本件配達証明書は、以下のとおり、その記載内容自体が不正確であり、その作成の根拠も合理性がなく、信頼性に欠け、かつ、記載内容自体も経験則に反するものであるから、本件配達証明書に記載された日を本件送達のあった日と推定することは許されないと解すべきである。

〈1〉 郵便物配達証明書の文言は不動文字で「配達したことを証明する」となっているが、郵便法62条は「配達し、又は交付した事実を証明し」と規定しているから配達と交付を区別している。しかして、本件配達証明書に記載された配達の日である平成4年8月30日は日曜日であるところ、書留郵便物が日曜日に配達されることはあり得ない(甲第8号証)から、書留郵便による本件拒絶査定の謄本は受領者に交付されたとしか考えられない(本件配達証明書の右下部分に、手書きにより、「平成4年8月30日代印」と記載されており、郵便物の名宛人に対して直接交付されたものではないことが窺われる)ので、不動文字の「配達」の部分を抹消して、「交付」と訂正すべきであったにもかかわらず、郵便法上の配達でない「配達」の証明をなしている。(仮に、郵便法上の配達をなしたことを証明しているとすれば、それは真実に反するものである。)

〈2〉 書留郵便物の配達を受ける際に、受領者が受領印を押す郵便物配達証という書類がある(甲第14号証添付の各写し参照。)。郵便物配達証は、配達証明書の作成の基礎となる一次的証拠と考えられる。しかるに、配達証に記載された日付けは、現実の配達日と必ずしも一致するものではない(甲第14号証添付の各表、同第15号証の1ないし3及び同第16ないし第18号証の各1、2)。そうすると、配達証明書の配達日は、何を根拠にして確認しているか疑問であり、配達証に記載された日付けによらないで、他に配達の日についての確認の方法があったとしても、郵便局員の誤認や誤記もなく、常に正確に作成されるものと考えることは合理的ではない。

しかも、本件配達証明書の作成日付は、証明すべき配達日から4か月余を経過している。したがって、本件配達証明書の作成の正確性に疑問がある。

さらに、以下のとおりの本件配達証明書の作成方法からみても、本件配達証明書に記載された配達日の正確性について疑問がある。

書留郵便物の配達証明書の作成方法は、以下のとおりである(甲第19、第20号証の各2、3)。

(a) 書留郵便物が配達又は交付された場合、配達又は交付担当者は、郵便物配達証に郵便物受取人の署名押印等を求め、また、郵便物受取人が同居者等の場合、本人との関係が証明できる身分証明書その他の資料の提示及び配達証にその関係の記入を、上記以外の代理人が受取人の場合は、委任状等の提出が求められる(甲第19号証の3の(7)項)。

(b) 配達便帰局後、配達証処理担当職員により、郵便物配達証に配達日が記入される(甲第19号証の3の(6)項)。

(c) 郵便物配達証は、配達証原符の上に張りつけるか、配達便又は配達日毎に配達証と同原符をそれぞれ別に取りまとめ、整理保管されている(甲第19号証の3の(4)項)。

(d) 書留郵便物差出し後に配達証明の申し出があった場合には、配達、窓口交付のいずれの場合でも、配達証明書は、前記郵便物配達証により配達又は交付したことを確認して、作成される(甲第19号証の3の(3)項)

以上のような方法を検討すると、配達証明書に記載される配達日は、郵便物配達証に記載された配達日に基づいてなされるものであることが判明する。しかるところ本件配達証明書を作成した福岡県博多郵便局は、郵便物配達証に記入すべき配達日を、配達に先立って、配達の準備段階で記入している(甲第20号証の3の4項)。そうすると、福岡県博多郵便局は、上記(b)の手続によらずに作成された郵便物配達証の記載に基づいて配達証明書に配達日を記載しているものといえ、配達証明書に記載された配達日が、実際の配達日と齟齬する場合があることは明らかである。なお、甲第14号証添付の各表、同第15号証の1ないし3及び同第16ないし第18号証の各1、2によれば、福岡県博多郵便局は、必ずしも郵便物配達証の記載に基づいて配達証明書に配達日を記載しているものではないようであるが、その根拠は明らかでない。

〈3〉 郵便物配達証明書の配達日の記載は、福岡県博多郵便局に関する限り極めて信頼性の低いものであることが、従前の同種の事例から明らかである。すなわち、

平成1年審判第8581号、同第8598号について以下のような事実があった。

出願人代理人が出願した意匠登録出願に対する拒絶査定の謄本が月曜日に書留郵便により配達されたので、出願人代理人は、実際の配達日から起算して30日目に審判請求を行なったところ、特許庁は、福岡県博多郵便局作成の配達日が実際に配達された日の前日である日曜日である旨記載した郵便物配達証明書に基づき、上記請求を期限経過後の審判請求として却下する旨の審決をしたそこで、出願人代理人事務所の所員が、上記配達証明書の配達の日が日曜日であるから配達されることはない旨郵便局担当者に指摘したところ、同担当者は、誤記を認め、訂正証明書を作成して特許庁へ送付した。その結果特許庁は、上記審判請求却下の審決を撤回した(甲第9号証)。

以上のように、福岡県博多郵便局の担当者が、配達証明書の配達の日が日曜日であると指摘されると直ちに誤りを認めて訂正証明書を特許庁に送付したことは、同郵便局の担当者が、配達証明又は配達証明を作成するにさいして参照すべき原資料の記載が、とくに日曜日に関しては、従来から誤記や不正確な記載が多く信頼できないものと考えていたことを推測させるものである。

本件配達証明書において、訂正証明書を作成し特許庁に送付する手続がとられなかったのは、審決が平成5年11月8日になされたため、原告の郵便局への照会が、資料の保存期間である一年の期間経過後であった(甲第8号証)ので、資料の廃棄後となり、訂正の証明が不可能であったからである。このように、審決が速やかになされれば、原告として訂正の手続をとれたのであって、何の落ち度もないのに不当に防御権を奪われることになる。

〈4〉 出願人代理人は、職務上、日常的に多数の出願関係書類等を取り扱っているので、書類の受領日を、受領した封筒、内容書類への受領日付印の押捺、受信簿への記帳等の複数の方法で記録し、管理しているところ、出願人代理人の上記の記録の記載によれば、本件拒絶査定の謄本の受領日は、平成4年8月31日となっている(甲第6、第7、第13号証)。

たしかに、甲第7号証の受信簿には、本件拒絶査定の謄本を受領したとの具体的な記載はないが、差出人欄に「特」と、また文書名欄には「諸通知」と記載されており、出願人代理人事務所の郵便物の受信のマニュアル(同第22号証)によれば、上記記載が特許庁からの諸通知を平成4年8月31日に受領したことを示すことは明らかであり、甲第5、第6号証の各記載及び日付け印と照らし合わせれば、上記諸通知に本件拒絶査定の謄本が含まれていたことは明らかである。そもそも、本件拒絶査定の謄本が受信簿に単独で記載されていないのは、特許庁が多数の書類を同封して一回で送達を行なう方法を採用しているからである。

〈5〉 平成4年8月30日は日曜日であるところ、書留郵便物は、日曜日に配達されることはなく、名宛人が郵便局窓口に赴いて、自己の身分を証明した場合にのみ受領することができるものである(甲第8号証)。したがって、本件拒絶査定の謄本は書留郵便により出願人代理人に郵送されているので、日曜日である平成4年8月30日に出願人代理人に配達されることはなく、名宛人が又はその代理人が郵便局に出向いて交付を受けることしか考えられない。書留郵便物は、受取人が不在である場合には、配達を試みたが不在であった旨の通知をしておくがら、書留郵便による本件拒絶査定の謄本の配達においても、かかる通知がなされ、出願人代理人が平成4年8月30日に同書留郵便物を郵煙局に出向く可能性があるかみるに、乙第2号証によれば、本件拒絶査定の謄本の発送は、書留郵便(東京中央郵便局受付平成4年8月28日)でなされたものであるが、原告の調査によれば金曜日の午前9時から午後5時までの間に、東京中央郵便局から書留郵便で発送した郵便物は、発送時刻により翌土曜日の午前11時50分ころに出願人代理人事務所に配達されるものと、月曜日の午後2時45分ころに配達されるものとがある(甲第10号証、同第11号証の1ないし5)。無論日曜日には配達されることはなかった。この調査結果によると、平成4年8月29日に、同日に書留郵便による本件拒絶査定の謄本の配達が試みられた可能性はないわけではないが、同日は、出願人代理人事務所の出勤日であり、通常通り、所員が出所して午前9時から午後5時まで勤務し、当日配達された郵便物の受領を受入簿に記録しており、その際不在通知を受領しておらず、したがって、平成4年8月30日の日曜日に同事務所の所員が休日出勤して郵便局窓口に行ったこともない(甲第12号証)。そもそも、郵便局窓口に名宛人以外の者が受領に行くためには、名宛人の委任状と受任者本人であることを証明するものが必要であって、書類の内容も不明であって、特に急がなければならない事情もないのに、所員が休日である日曜日にわざわざ委任状等を用意して郵便局窓口に赴くこと自体不自然な行動である。したがって、平成4年8月29日、書留郵便による本件拒絶査定の謄本の配達が試みられながら出願人代理人事務所において、受領されなかったという仮定は成り立つ余地はなく、平成4年8月30日に上記郵便物が出願人代理人に交付される可能性はない。

〈6〉 過去の特許庁からの書留郵便物の配達状況からみても、書留郵便による本件拒絶査定の謄本の配達が、日曜日である平成4年8月30日に出願人代理人に配達されることはない。すなわち、出願人代理人事務所の平成2年1月から平成5年12月までの4年分の受信簿に基づき、同4年間における特許庁からの書留郵便物の配達状況を調査した(甲第第22号証、第23号証の1、2第24ないし第35号証)ところ、以下の事実が明らかになった。

(a) 出願人代理人事務所において、上記の期間に日曜日に、特許庁からの書留郵便物の配達ないし交付を受けたことは一度もない。

(b) 上記期間中、特許庁からの書留郵便物の配達を受けたのは、月曜日か木曜日かに限られる。月曜日又は木曜日以外の日に特許庁からの書留郵便物の配達があったのは、月曜日又は木曜日が休日、祭日に該当する場合であった。月曜日又は木曜日が休日、祭日に該当しないにもかかわらず、月曜日又は木曜日以外の日に特許庁からの書留郵便物の配達があったのは、上記期間中、僅か3日(内土曜日が2日)である。

以上のとおり、本件配達証明書の記載内容は経験則に反するものである。

したがって、本件配達証明書の記載による推定は、反証によって、覆されたと解すべきであるから、本件配達証明書の記載のみによって、本件送達があった日を平成4年8月30日と認定することは許されない。そして、以上によれば、同月29日とも考えられない。

なお、被告は、本件拒絶査定の謄本の送達があった日を証明する証拠として、乙第1号証の他、乙第2ないし第5号証を挙げるが、これらはいずれも本件拒絶査定の謄本の発送が平成4年8月28日になされたことを証明するに止まるものである。

よって、本件拒絶査定の謄本の送達は平成4年8月30日になされたものではなく、同月31日以降であることは明らかであるにもかかわらず、同月30日になされたものとして、同日を起算日として、同年9月29日までに、審判請求すべきものとして、本件審判請求を、期間を経過した後の不適法な請求であり、その欠缺は補正することができないものであるから、本件審判請求は、意匠法52条において準用する特許法135条の規定により、これを却下すべきものとした審決は違法であるから、取り消されるべきである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1及び2は認める。同3のうち、平成4年8月30日が日曜日であること、本件拒絶査定の謄本が普通書留郵便により出願人代理人に郵送されていること、福岡県博多郵便局における原資料が保存期間(1年)経過により廃棄されているため、被告の主張を裏付ける直接の証拠は、本件配達証明書以外にはないことは認める、その余は争う。

2  被告の主張

(1)  特許庁において、拒絶査定謄本の送達を、書留郵便で郵送する方法により実施しているが、かかる方法による送達は、特許法190条、民事訴訟法162条、同164条1項に基づくもので、郵便による送達として、拒絶査定の謄本が受送達者に交付されたときに送達されたことになるというべきである(東高裁昭53・5・2判無体裁集10・1・154)。

本件拒絶査定の謄本は、平成4年8月28日に書留郵便により発送に付されたものであり(乙第2号証)、同月30日に、出願人代理人と事務所を同じくする「伊東守忠」を受取人として配達されたことが、本件配達証明書(乙第1号証)に記載されているから、本件送達があった日は同日である。本件配達証明書により、郵便物の配達・交付に関し責任と権限のある官署が、本件拒絶査定の謄本の送達があった日について資料に基づき、証明をしているのであるから、その内容が真実に反することはない。

なお、特許庁は、拒絶査定謄本の送達日が問題になった場合には、東京中央郵便局の書留郵便物受領証、拒絶査定原本、包袋裏側の郵送年月日の発送スタンプ印の記録、方式第二課発送係長の発送証明に加えて郵便物配達証明書を取り寄せて、少なくとも送達報告書と同視し得る程度の証明力を有する資料によって確認しているものであるから、少なくとも送達報告書と同視し得る程度の証明力を有する資料によって確認しているものである。本件送達においても、東京中央郵便局の書留郵便物受領証(乙第3号証)、拒絶査定原本(乙第4号証)、包袋裏側の郵送年月日の発送スタンプ印の記録(乙第5号証)、方式第二課発送係長の発送証明(乙第2号証)、郵便物配達証明書(乙第1号証)によって、送達日を確認している。

(2)  出願人代理人事務所において、本件拒絶査定の謄本の送達があった日を平成4年8月31日として、受領日付印の押捺、受信簿への記帳等がなされているとしても、いずれも内部処理のためのものであって、本件配達証明書に記載された配達日の真実性を否定することはできない。

なお、甲第7号証の受信簿には、本件拒絶査定の謄本を受領したとの具体的な記載はない。

(3)  したがって、本件送達があった日は、平成4年8月30日であることが明らかであるから、意匠法46条に基づき、本件審判請求は、同日から30日以内の同年9月29日迄になされなければならないところ、同月30日になされたものであるから、不適法な審判の請求であってその補正をすることができないものである。

よって、審決の認定及び判断は正当であり、原告主張の違法はない。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立は甲第3、第4号証について、受領日、期限日欄は不知、同第5号証について、日付の書き込み、スタンプ印は不知、同第6号証について、スタンプ印は不知とする以外は、いずれも当事者間に争いがない。乙第3号証は、原本の存在についても、当事者間に争いがない。)。

理由

1  特許庁における手続の経緯、審決の理由の要点、平成4年7月28日に本件拒絶査定がなされたこと、本件拒絶査定の謄本が出願人代理人に送達されたこと、特許庁は同謄本を同年8月28日に書留郵便により発送したこと、本件配達証明書には上記郵便物が同年8月30日出願人代理人に配達されたことが記載されていること、同日が日曜日であること、本件審判請求は、同年9月30日になされたこと、福岡県博多郵便局における原資料が保存期間(1年)経過により廃棄されているため、本件送達日が同年8月30日であることを裏付ける直接の証拠は本件配達証明書以外にはないことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  取消事由に対する判断

(1)  乙第1ないし第5号証によれば、特許庁は、〈1〉本件拒絶査定の謄本を、平成4年8月28日12時から18時の間に他の書類とともに一括して東京中央郵便局から出願人代理人事務所宛に書留郵便をもって(以下「本件書留郵便物」という。)発送したこと、〈2〉福岡県博多郵便局から平成5年1月13日付けの本件配達証明書を徴求したうえ、同年11月8日、本件審決をするに至ったことが認められる。

一方、甲第5ないし第7、第12、第13、第21号証(弁論の全趣旨によれば、甲第5号証の日付の書き込み、スタンプ印の押捺、同第6号証のスタンプ印の押捺は、出願人代理人事務所の所員によってなされたものと認められる。)によれば、出願人代理人事務所では、郵便受付マニュアルに従って、郵便物の受信と管理が行なわれ、書類の受領日を受領した封筒、内容書類への受領日付印の押捺、受信簿への記帳等の方法で確認し、これに基づいて日限管理を行なっているところ、出願人代理人事務所の上記各記載上、本件拒絶査定の謄本の受領日はいずれも平成4年8月31日(月曜日)となっていることが認められる。

(2)  弁論の全趣旨によれば、特許庁による拒絶査定の謄本の送達は、従来から書留郵便によって同謄本が受送達者に交付されることによって完了するものと取り扱われているところ、郵便法にいう特別送達では郵便集配人の送達報告書が作成される(同法66条)のに対し、書留郵便物では引受から配達までの記録が要求されるものの(同法58条)郵便物配達証が配達郵便局に保存されて後日配達又は交付の月日などの証明を受けることができる(同法62条)にすぎないという差異があり、特許庁が採用している書留郵便による拒絶査定の謄本の送達は、郵便法による特別送達に比べて、後日の証明の容易さ、正確さに若干劣るとはいえ、全体としてほぼこれと同視してよい程度のものでありしたがって、特許法190条、民事訴訟法162条、164条1項に基づく郵便による送達に該当するというべきである。

(3)  次に、本件配達証明書に記載された配達の日が本件送達があった日であるとの審決の認定について検討する。

郵便物配達証明書は、郵政省が、郵便物の配達・交付に関し、当該郵便物を配達・交付した事実を証明する(郵便法62条)書面と認められるところ、郵政省は、当該郵便物の配達又は交付のあった日も証明事項と解して(甲第19号証の3の(1)項)、当該郵便物の配達・交付の事実の証明の根拠となった資料に基づき、かかる日を記載しているものであるから(甲第19号証の3の(3)項)、特段の事情がないかぎり、郵便物配達証明書に記載された配達又は交付の日をもって当該郵便物の配達又は交付のあった日であると推定すべきである。

しかしながら、郵便物配達証明書は公文書であるけれども、当該郵便物の配達又は交付のあった日を正確に記載していると認められない特段の事情が存する場合には、郵便物配達証明書に記載された配達又は交付の日をもって当該郵便物の配達又は交付のあった日であると推定することは許されないと解すべきである。

しかして、以下のとおりの事実によれば、本件郵便物配達証明書が本件書留郵便物の配達又は交付のあった日を正確に記載していると認めることはできない。

(一)  平成4年8月30日は日曜日であるところ、本件書留郵便物の配達又は交付をなした福岡県博多郵便局では、受取人の申し出により窓口で交付する場合を除き、一般的に日曜日には、郵便物(速達を除く。)の配達は行なっていない(甲第8号証)。

そうすると、出願人代理人あるいは出願人代理人事務所の所員(所員の場合は委任状を要する((甲第19号証の3の(7)項))。)が、平成4年8月30日に郵便局に赴き窓口で交付を受ける場合を除き、同日に本件書留郵便物を受領することは通常あり得ないと認められる。

しかしながら、甲第12号証によると、その前日である平成4年8月29日(土曜日)は出願人代理人事務所の所員の出勤日であり、所員が朝9時から午後5時ころまで出勤して郵便物の受領と管理とを平常どおり行なっており、その際郵便集配人によって不在通知が残されていたということもなく、したがって、翌8月30日の日曜日に所員等が休日出勤して郵便物を受領するため福岡県博多郵便局窓口に行ったこともないことが認められる。

なお、乙第1号証によれば、本件配達証明書の右下部分に、手書きにより、「平成4年8月30日代印」と記載されていることが認められるが、これは、郵便物の名宛人に対して直接交付されたものではないことを表示するものではなく、差出し後の配達証明書の請求の場合であるので、配達日をわかりやすくするために、「平成4年8月30日代印」と表示したものにすぎない(乙第6号証、甲第19号証の3の(5)項、同第20号証の3の3項)と認められる

(二)  郵便物配達証明書は、郵便局に保管される郵便物配達証に基づき作成される(甲第19号証の3の(3)項)が、郵便物配達証に記載されている「月日等」の欄は、配達便帰局後、配達証処理担当職員が別個に配達月日を記入する取扱いになっている(同号証の3の(6)項)にもかかわらず、本件配達証明書を作成した福岡県博多郵便局では、郵便物配達証明書は、郵便物配達証に基づき作成される取扱いであり(同20号証の3の1項)ながら、郵便物配達証に記載された日付は、配達に先立っての準備段階で記入されるため(甲第20号証の3の4項)、郵便物配達証明書における配達の日付は、必ずしも、郵便物配達証の日付と一致するとは限らないのが実情である(甲第14号証、同第15号証の1ないし3、同第16ないし第18号証の各1、2)と認められる。

したがって、福岡県博多郵便局では、何らかの補助的資料に基づき、配達の日を確認しているものと推認できるがいかなる補助的資料に基づいているか明らかでなく、その信頼性について確認することができない。そのうえ、本件配達証明書が作成されたのは、前記のとおり、平成5年1月13日であり、配達の日とされる同4年8月30日から4か月余りも経過している。

以上の事実に、前記のとおり出願人代理人の日限管理上の各記載によると本件拒絶査定の謄本の受領日は平成4年8月31日(月曜日)となっていることをあわせ考えると本件配達証明書に記載された配達の日が実際に配達された日を正確に表示しているとは認め難く、本件配達証明書に記載された配達の日である平成4年8月30日をもって、本件書留郵便物の配達又は交付の日であると推定することは許されないと解すべきである。

(4)  したがって、本件配達証明書に記載された配達の日をもって、本件送達のなされた日と認めることはできない。もっとも、被告は、本件送達がなされた日を証明する証拠として、乙第1号証(本件配達証明書)の他、乙第2ないし第5号証を提出するが、これらはいずれも本件拒絶査定の謄本の発送が平成4年8月28日になされたことを証するに止まり、上記謄本の出願人代理人への交付が同年同月30日になされたことを直接証するものではない。

そうすると、意匠法46条に規定する期間を経過した後の不適法な請求として本件審判請求を却下した審決は、違法として取消しを免れない。

3  よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

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